約3300年前の古代エジプト王であったツタンカーメン王の墓は、1922年イギリスの考古学者、ハワード・カーターにより発掘され、日本でも1965年に黄金のマスクなどが展示されました。現在でも多くの人々を魅了するツタンカーメン王ですが、その衣装を目にする機会はありませんでした。というのも、麻織物の服飾品の多くは長い年月を経て劣化しており、展示に耐えられる状態ではありませんでした。1990年に、織物技術で知られているスウェーデンにて王の衣装を復元するプロジェクトが発足しました。世界中の研究者、技術者の協力により、衣装の多くは麻織物で、白を基調とし、赤は茜、青色は藍で染められていることが解明されましたが、当時ヨーロッパにおいて藍染を再現する技術が無く、藍染無形文化財技術保持者である日本の中島安夫がこのプロジェクトに参画することとなりました。5年以上の歳月を費やし復元された衣装の中には、幼少時代のツタンカーメン王の衣類、王が神官として身に纏った衣装など13点が展示されます。
私は埼玉県の羽生市で、代々藍染を家業とする家に生まれました。昭和25年にこの道に入り、すでに60余年、藍染一筋に従事して参りました。この半世紀余りの間、伝統工芸としての藍染業界は正に激動の時代でした。私は、長く伝承された藍染文化を後世に残し、これを広めるべく、出来うる可能性の中で様々な活動をして参りました。その中で、1990年代に、古代エジプトのツタンカーメン王の衣装を藍染で復元するという、国を跨いだプロジェクトの依頼を頂き、調査、研究、試験染めを重ね、インド藍で染めた糸を提供しました。その後しばらく経って2011年に関係機関を尋ねると、完成品は現在、スウェーデンのボロース市にあるテキスタイル博物館所蔵であることが判り、同博物館を訪問して実際に見て参りました。その時に復元品を見て、これが3300年前の技術かと驚くほど繊細な模様が手織りで再現されておりました。聞けば、スウェーデンの研究機関が5年もの歳月を掛けて、当時の原料や技法を調べ、世界各国の技術者に復元を依頼したそうです。そのような、古代の藍染を私の手で復元できたことは、何よりの喜びでありました。同博物館ではヨーロッパを中心に、各国で展示されて来たようですが、訪問した際、日本ではまだ機会がないので是非開催して頂きたいとの依頼を頂戴致しました。 武州中島紺屋4代目 中島安夫
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